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アナザーストーリーズ
「日章丸 ホルムズ海峡へ 〜石油輸送 知られざる物語〜」
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10月7日(水)NHK BS 21:15~放送今から73年前も、ホルムズ海峡は緊迫していた!対立したのはイランとイギリス。イランが石油の国有化を宣言したのに対し、採掘で巨額の利益を上げていたイギリスが反発、軍艦を差し向けたのだ。「イランの石油を買うな」とイギリスは世界に通告。だがそのとき、出光興産のタンカー日章丸がホルムズ海峡を密かに通過し、石油の買い付けを断行した。その出来事は今もイランの人々に記憶されている。知られざる航海の舞台裏。
番組HP
担当Dの見どころ紹介
今回のテーマは今から73年前、1953年に起きた「日章丸事件」。日章丸を率いた出光興産の創業者・出光佐三は1885年生まれで、その100年後に生まれた私にとっては歴史上の人物です。さらに、日章丸事件に関わった主要人物はみな他界されていると言います。
「本当に番組になるのか?」。震える手で関連書籍をめくるところから番組制作が始まりましたが、多くの方に協力いただき、取材は豊かなものになりました。この番組では必須である事件の当事者はいないにも関わらず、みな自分が体験したかのように日章丸事件や出光佐三を語ります。そこには先人への尊敬や深い愛がありました。また、私たちの生活に欠かせない石油についても発見の連続でした。日章丸事件をはじめ、資源を持たない日本が石油を手に入れるにはどんな苦労があったのか。石油を持つがゆえに大国に翻弄されてきた産油国の悲劇など、誰にとっても身近な石油に、こんなにも知られざる物語があるのかと、驚きながら取材を続けました。
視点1の証言者、古田英明さん(84歳)は事件の6年後に日章丸の乗組員となりました。入社当時は、事件について何も知らなかったと言いますが、インタビューではまるで自分がイランへ向かったかのような臨場感で語ります。というのも、タンカーの航海は通常1か月以上続く長いもの。仕事が終わった夜になると先輩乗組員は食堂に集まり、互いに語り合う「かたふり」と呼ばれる会合を開きました。古田さんは、そこで先輩たちから伝説の航海について何度も聞いていたのです。また、ご自身が船長となり、中東に向かう度に日章丸の航海の難しさを実感し、また船員の命を預かる船長の重圧を噛み締めたと言います。
出光佐三については、1960年代後半に社長室に勤務し、2年間毎日、佐三と接した厩橋輝男(85歳)さんに人物像を語っていただきました。佐三は商売の話は一切せず、いつも人間の生き方について話したと言います。さらに、出光興産のギャラリーの書庫には、出光佐三が書いた膨大な直筆のメモが残されており、今回の取材で初めて見つかった貴重な資料も番組で紹介しています。取材を通して、出光佐三は、争うのではなく、手を取り合い、お互いを尊重することを考え続けた経営者であることに知り、混迷を極める今の時代で、人間が人間らしく生きるために必要な考えだと痛感しました。このことを大切にしながら、編集室では、証言者のインタビューや残されている出光佐三の言葉や資料と格闘し、時には笑いながら、時には涙しながら、苦労して番組を制作しました。
視点2では、当時のイラン首相・モサデクを描きました。石油の富を国民の手に取り戻そうと大国・イギリスに抗った人物です。戦時下のイランへ取材に行くことは勿論できず、イラン映画の撮影監督・アーマディーさん、プロデューサー・ショーレさんとやりとりを重ね、撮影をお願いしました。実はモサデクは、イランの歴史に詳しい彼らでもほとんど知らないほど、その功績はイランでは公にされていません。そんなモサデクについて語ってくれたのは、モサデクが亡くなるまで12年間仕えた、アブールファト・タックルスタさん(83歳)。
モサデクは日章丸事件後、クーデターにあい、亡くなるまで軟禁生活を強いられました。墓を建てることさえ許されず、自宅の応接間に作られた石の棺に眠ります。タックルスタさんには、モサデクの自宅を案内してもらいながら、モサデクから伝え聞いたことや、思い出を語ってもらいました。
事件から73年たった今でもイランでは「日章丸事件」が語り継がれています。しかし、私たちにとってイランは遠く、どんな国かも詳しく知られていません。今回の取材を通して、イランの人々の国民性や当時のイラン国民の石油支配からの独立への思い、石油をめぐり世界が争いを続けてきた事実など、私たちの生活に欠かせない石油の尊さに触れてもらえたらうれしく思います。
視点3では、1970年代以降、日章丸のスピリットを継ぎ、中東の新天地へと向かった出光興産の社員たちの奮闘を描きました。世界有数の産油地であるがゆえ、中東は危険が多かった。証言者の一人、田代安彦さん(72歳)はクウェートに赴任した1990年、イラク軍によるクウェート侵攻に巻き込まれ、イラク軍の人質になります。
その時、田代さんを救ったのは意外なルートでした。さらに田代さんは救出から8か月後、再び中東に赴任します。なぜ命の危険にあってなお、再び中東へと向かったのか? そこには、73年前の日章丸事件につながる、ある思いがありました。
アメリカによるイランへの攻撃でホルムズ海峡が封鎖され、私たちの生活を直撃する今、日本に石油を届けるため、命懸けで石油輸送を担った男たちの知られざる物語を、お楽しみいただければと思います。
ディレクター 椎名 洋平(スローハンド)